地方公務員 交通労働者B氏(男性,37歳)の事例から

 (1) 弁護士に依頼するまでの経緯
01年うつ病と診断され、7ヶ月間病気休暇ののち、3カ月間職場復帰訓練を受けて復職した。その後1年余り支障なく普通に勤務。勤務先にもB氏にも互いに何の不満もなかった。ところが、B氏が労働組合の支部長に立候補し当選したのを捉え、04年1月所属長が抗うつ薬を飲んでいるから病気が治癒していないとして産業医(内科医、女性)に強引に面接させた。産業医による保健指導という名目のもとに翌日より出勤停止が命じられた。精神科医の主治医は就業可能との診断をしており、弁護団に依頼。

(2) 弁護団サポートにより復職
出勤停止措置は地方公務員法上根拠がなく、撤回を求めるとともに、産業医との面接を希望したが実現せず、逆にB氏に無断で所属長と産業医が主治医に会い、診断の変更を求めた。さらにB氏に対し、弁護士抜きでの話し合いを求め、詫び状を出させるなど管理者としての支配的地位を利用して事態をごまかそうとした。最終的には所属長もあきらめ、7ヵ月後にようやく復職させた。(06年12月の職業リハビリテーション研究発表会での発表事例)

(3)職場復帰後の報復人事

[1]ゴミ収集作業に配置転換
 04年8月に復職。職務内容の変更について説明もないまま、当日出勤したB氏に「作業着」一式が渡され、軍手をはめて外での「ごみ収集作業」を命じられた。前回の職場復帰の職務は「事務作業」であるが、今回は明らかに報復とされる内容であった。この年は記録的な暑さもあり、外での作業は体力面からもB氏は相当にダメージを受けた。真冬についても同様であった。
[2] 深夜勤務への異動発令
  翌年4月に異動命令。今度は、「隔日勤務」つまり「深夜勤務」を伴う作業である。B氏は、「深夜勤務や長時間勤務は禁忌である」旨の記載ある診断書を「保健指導」時には毎回提出していたにもかかわらず、これを一切無視した異動発令であり、B氏の症状を配慮するどころか、報復人事の更なる徹底である。
  この仕事場は、わずか2畳足らずの小さな部屋に朝の8時10分から21時15分までいなければならず、その間入れ替わり立ち代り、休憩に訪れる他の職員が煙草を吸っていく。22:00から23:45までは、本店に帰り、現金の収集作業し深夜0時ごろから翌朝5時まで仮眠する。5時から7時まで本店で作業があるが、B氏はいつもボーっとしていた。時折上司から注意される。そして、7時から8時10分までまた出先の小さな部屋に行く。そして交代し、本店に戻り8時30分からの朝礼を迎えてから、その隔日勤務は終了する。
  当然のこととして2ヵ月もすると、B氏の体調に影響が出始めた。「のどが痛む」「目がかすむ」「皮膚がただれる」。そして、持病となった「睡眠障害」は隔日勤務のローテーションに慣れないため最悪の状況となった。精神科主治医は、「隔日勤務において服薬治療が困難になること、このことにより、うつの症状が悪化する原因にもなること」と診断書に記載した。また、職場環境から、非常に狭い部屋での煙草による「副流煙」での体調不良から、K大学研究所病院・アレルギー科は、「シックハウス症候群」(化学物質過敏症)と診断した。

(4)コンプライアンスが確立していない公務員の職場
[1] パワハラをする側にも身分保障
  公務員は身分保障がされており、意に反する降任・免職・休職を行いうるのは法律が規定する事由に限定される(国家公務員法78条・79条、地方公務員法28条)。分限手続も厳格である。休職期間は通例3年であり、民間と比べ長期である。そんなことからうつ病で苦しむ公務員からの相談については相談を受ける私たち弁護団の側に“どうせクビになることはない”と高をくくったところがあった。ところが、身分保障がされているのはうつ病で苦しむ労働者の側だけでなく、うつ病の労働者をパワハラで苦しめる上司(中間管理職)も身分保障がされている、ということを私たちは看過していた。
[2] 中間管理職の違法行為に対する歯止めがない
B氏に対する出勤停止命令は法的根拠のない違法命令である。そのことをB氏の所属長や本局の労働課に訴えたが、改善する気配がなく、やむなく知事、交通局長以下関連する責任者に内容証明郵便でもって訴えた。それでも態度を改めず、逆に所属長は知事以下に訴えたことを逆恨みした。所属長は出勤停止の勧告をしたとする産業医とともにB氏の精神科主治医と面談し、診断の変更を求めるという新たな違法行為を行った。法的根拠がない旨の弁護団の指摘に不承不承復職させたが、復職させたのちは報復人事を重ねた。その結果、B氏の症状は悪化したが、このことについて誰も責任を問われていない。所属長はB氏に弁護士抜きの話し合いを執拗に求め、B氏は辛抱強い人物で報復人事を一人で耐えていた。
[3] 治外法権 
公務員の世界では自己の権限内の行為については、裁量という名の一種の治外法権が成立し、例え上司であれ、口を挟むことはない。そのため、中間管理職がやりたい放題をした事例があった。B氏は地方公務員であるが、国家公務員の世界でも中間管理職がやりたい放題をした事例があった。公務員の世界での中間管理職に対する徹底した監視が必要であり、油断できないことを改めて知らされた。今後は違法行為を行う管理職やこれを補佐する産業医の責任追及のための法的手続も視野に入れていく必要がある。

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